REPORT

フィールドワークレポート
世田谷線コース

世田谷線コースは、世田谷区の松陰神社ローカルタウンに佇む「地域密着型大衆食堂」として、少しでも多くの方の胃袋を満たせるよう時間を問わず「MEAL SPACE=お食事空間」を提供するカフェ「STUDY(スタディ)」と、築50年以上の木造アパートをリノベーションして作られた複合施設「松陰PLAT(プラット)」、2004年10月に廃校となった旧池尻中学校舎を再生した複合施設「IID(Ikejiri Institute of Design) 世田谷ものづくり学校」へ。

地域密着型大衆食堂「STUDY」へ

世田谷線コースは9名のメンバーでフィールドワークへ。最初に向かったのは、2010年9月に松陰神社にオープンしたカフェ「STUDY」。世田谷区のローカルタウンに佇む「地域密着型大衆食堂」として、幅広い世代に、幅広い形で、少しでも多くの人たちの胃袋を満たせるよう時間を問わず「MEAL SPACE=お食事空間」を提供しています。同店の代表で、松陰神社通り松栄会商店街振興組合(以下、組合)の副理事を務める鈴木一史さんにインタビュー形式で、組合における「STUDY」をはじめとしたブランディングの取組についてお話を伺いました。

あえて統一感を出さないことが、地域の色を生む

松陰神社通り商店街は250mほどの距離に、飲食店をはじめとした様々なお店が軒を連ね、平日の昼間であっても多くの人が行き交い、賑わっています。しかし、10年前には半分くらいの商店がシャッターを下ろしていたとのこと。

組合の副理事を務める鈴木さんは、どのように松陰神社通り商店街のブランディングに取り組まれているのでしょうか。
「基本的には、一事業者として自分の売上を伸ばしていくことを大事だと考えています。ただ、そのためには、町に人が来てくれないとダメ。町の中で、自分の店の存在意義をどう見出していくのか。そういう中で、自分の町に少しでも人に来てもらえるように、STUDYを起点に、口コミで情報拡散などはしています」と話す鈴木さん。

しかし、情報拡散以外では、特に何かを組合と連携して行うなどはしていないとのこと。にも関わらず、130〜140事業者が出店し、賑わいを生み出している松陰神社通り商店街。鈴木さんは、地域の中に危機感がなく、無関心な人たちが多いことで、逆に若い世代が自由に行動できる寛容さを生み、地域の色を作っていると語ります。

「自分がここに来た時から、人が少ないということに対して、危機感を持っていない人たちが多かった。だから、商店街に出店したいという自分と同世代の人を連れてきても、みんな無関心。良い意味で寛容でした。結果として、今は30店以上が自分と同世代くらいの人たちの店。そうやって緩やかに人の動きが回り始めたんです。そもそもがそういう地域への入り方だったので、基本的にはみんな各々が自由に情報発信などをしています。統一感を出すということは考えていません。それぞれの考える商店街・町があって、個々に情報発信していくことで、この地域の色ができるのだと思います」(鈴木さん)

地域に合わせて無理なく動く

参加者からは鈴木さんのお話を伺い、「自分の島だったら、絶対に周囲の声を気にしないといけないし、何をするにしても壁が多い」という声が挙がりました。その声に応えるように、鈴木さんは、地域の中に自由に動ける寛容さがある一方で、その寛容さに甘えて好き勝手に振る舞うのではなく、自分自身で注意すべき点をしっかりと持っていると言います。

「その町を形作っているそれぞれに個性があって、その集合体が町になり、町の特徴・魅力になる。それを町という単位でコントロールするのは不可能だし、おこがましい。だから、町に対して負荷がかかりやすい大きな変化、急激な変化を無理矢理に動かすのではなく、長いスパンで考えて、無理なく自ら動いていかないといけないと思います。全ての物事を俯瞰してみること。自分が良いと思ったことでも、誰かにとっては違うかもしれない。急激な変化には、敏感な人もいるかもしれない。町の雰囲気を見て、そのペースに合わせた動き、やり方を検討していくべきだと考えています」

一気に大きな変化を作るのではなく、無理なく町のペースに合わせて動かしていくことと語る鈴木さんのお話は、島での活動にも共通している点が多々あり、鈴木さんの一言一言に参加者が頷く仕草が多く見られました。お話を伺った後は、STUDYでランチタイム。その後、築50年のアパートをリノベ−ションし、町の「プラットホーム」として、1階に4区画、2階に5区画のスペースを貸し出し、アーティストの作品ショップや生活雑貨の製造などに利用されている「松陰PLAT」を見学しました。

人と地域がつながる次世代の学び舎「世田谷ものづくり学校」へ

松陰神社通り商店街を後にした一行が次に向かったのは、2004年10月に廃校となった旧池尻中学校舎を再生した複合施設「IID(Ikejiri Institute of Design) 世田谷ものづくり学校」(以下、IID)。行政の建物を民間主導で、そしてマネジメントも独立採算で行うビジネスモデルは都内初の廃校活用事例として、設立時から注目を浴びました。改修工事は学校本来の機能・雰囲気を活かすことをコンセプトに置き、現在も当時の中学校の雰囲気を感じることができます。

今回は、世田谷区と定期賃貸借契約を結び、IIDの管理運営を委託されている株式会社ものづくり学校の事務局メンバー、大前敬文さんに校舎を案内していただきました。

「我々ものづくり学校は、設立当初から世田谷区と取り決めた『産業振興』『地域交流』『観光拠点化』という3つの指針に沿って活動しています。主な事業内容は“ものづくり”事業者へのオフィス提供・創業支援・ものづくり体験と、交流の場の提供・スペースレンタル・地域コミュニティとの連携などです」(大前さん)

きれいにリノベーションされた元下駄箱のエントランスで概要の説明を受けた一行は、早速校内視察へ。まず目に飛び込んできたのは、校舎の天井近くまである壁にかけられた大きな黒板。IIDで開催予定の誰でも参加可能なワークショップやイベントの予定が、所狭しと書き込まれていました。更に校舎を進むと、アパレル・雑貨のセレクトショップやシアタールーム、高級パン専門店、スノードーム美術館、カフェなど、一般の方が訪れることのできるテナントが多く入居していました。

「教室のほとんどは、クリエイター・デザイナーといった“ものづくり”事業者がオフィスとして活用しています。同時に地域コミュニティ、イベントスペースとして本来の機能を残しつつも『だれでも通える学校』としても一般向けに開放しています」(大前さん)

元々、そこにあるものを活かす

2階へ上がる階段の踊り場には、懐かしい蛇口式の水飲み場が。「学校だった」ポイントがあちらこちらに散りばめられ、メンバーからは童心に返ったように懐かしむ声が上がりました。続いて2階のオフィスフロア。建築・設計関連の会社が複数入居している教室やグラフィック、エディトリアルのデザイン会社、電力小売事業者など、業種はさまざま。

その中に1つの教室を9㎡に区分けしたスタートアップ企業向けの「創業支援ブース」と呼ばれる教室も。3階の一部は世田谷区の管轄として、若者の就労支援や区民のメンタルケアを行う団体が在中し、就労支援の一環としてIIDに入居している事業者へのインターン受入れを促進するなど、施設内でうまく連携を図っていたのが印象的でした。

「入居者同士の横のつながりで自然発生的なプロジェクトに発展したり、名刺の住所に書かれた『IID』の文字が取引先で話題になったりと、ここ数年、世間的にも『IIDという場』そのものにブランド力があると受け入れられているように感じています」(大前さん)

参加メンバーは校舎内の写真を撮ったり、個別に事業スキームについて質問したりと、どの島にとっても課題になっている「廃校の利活用」について熱心に耳を傾けていました。

校内見学の最後に、IIDの姉妹校「隠岐の島ものづくり学校」と「三条ものづくり学校」について、立ち上げから運営にまつわるノウハウをお話しいただき、大前さんは「同じ『ものづくり学校』でも隠岐は漁業であったり、三条は金物であったり、地域によってリソースが違ければ、運営方法も全く違う」ということを教えてくれました。

モデルケースはあくまでモデルケース。地域住民が何を求めているか、その場所にどんな思いを持っているか、ゼロベースでなく元々そこにある土壌を活かした世田谷区の廃校再生ストーリーに参加メンバーも学ぶことが多かったようです。